この写真に写っているもの・・・
多分、最初の頃は来客を驚かせたと思います。
鹿の首のことではありません
この首は、うんと最近ここにかけられたものだと思います。
『おくどさん』のある台所の壁にこんなものを飾っておいたのでは、すぐに煤びますからね。
今日の主役は、黒光りした鴨居の上まで垂れ下がっている紐です。
上には、今ではほとんどお目にかかれない、碍子製の丸いスイッチがついています。おそらく中はロータリースイッチでしょう。
今もこの配線が生きているのですから動かせばこのふすまの向こうの客間か中の間辺りの電灯が点滅するはずです。
普通の家では、家の中にぽつんと裸電球か乳白色の皿のような傘のついた電灯が一つだけぶら下がり、点けるにも消すにも、背伸びをしてスイッチをひねっていた時代です。二又だとかひも付きのソケットなどと言うものは松下幸之助さん以降の事ですからね。
そんな時代に、家中に電灯がある豪華なお宅で、部屋に通されて待つと、人も来ないのに座敷の電気がパッと点いた・・・
そりゃあ、田舎の客人は驚いたことでしょう。
今の時代には当たり前のこと・・・しかし、時代を遡れば、『驚くこと』『モダーン』なことだったのです。
そんな時・・・
『やれよーーっ。びっくりしたわいよう・・・』
『まっことお! 勝手に電気が点いたんじゃさかいにのし!』
『やっぱり、だんなしは違うのし!』
『おびえるのし・・・』
などと、この辺の人は話したに違いありません。
こんな紐ですが、当主の自慢げな顔が浮かんでくるものなのです。
カメラは
センチュリー・グラフィック+スーパートプコール65mm
この範囲です